フルートの音と言っても様々なイメージがあります。音の練習をすごくしっかりしているのに、曲になると何か思い通りにならないとか、もっと違う感じにしたいと思った時に何がどう違うのか悩んだりする事があるかもしれません。悩みの種類は人によって違うため様々な考え方を模索してみると何か見つかるかもしれません。
今回はそんな中から、ベクターとラスターを取り上げてみました。
と言っても、なんの事かさっぱりわからないという文になっていますので、読みながら寝てしまう方もいるかもです。
ベクターとラスターって何?
これらの用語は、音楽用語ではないためデザイナーの方にとっては聞きなれた言葉だと思いますが、フルートの世界では、なかなか出会わない単語かもしれません。
ベクター
イラストや文字に使われている様な、境界線のはっきりしている真っ直ぐな線で描いている画像の形式です。(ベクター画像として貼り付けができなかったため上の画像はイメージです)
おおざっぱな捉え方で言うと、「ベクターは文字やイラスト」と思ってみて下さい。
ラスター
ベクターは、写真の様な画像で、細かい画素の集まりです。拡大すると境界線がぼやけています。カメラなどで何千万画素とかいいますが、沢山の粒の集まりで、拡大して細部を見るとぼやけていて綺麗ではないのですが、離れて見ると複雑階調のある画像として映し出されます。
こちらもおおざっぱな捉え方で言うと、「ラスターは写真」となります。
ベクターな音・ラスターな音
視覚的な世界を、聴覚に置き換える事には、いろいろ無理な面もありますが、音色の様々な変化の一つの捉え方として感じてみるのも面白い練習になります。
ベクターな音
音の輪郭がはっきりしていて、しっかりとその音の個性を捉えている音です。
その音一つ一つに対する集中力が強い感じになります。
余計な雑音(シャーリングなど)を抑え、音程を考えてしっかりと伸ばす練習をしていきます。
倍音などをしっかり絡ませて言ってもベクター感が出ます。
ラとソは別の音
例えばラの次がソである時、ラは100%ラ、ソは100%ソとすると、人に例えて、「ラさん(東京都在住、女性、好きな食べ物・アンパン)と、「ソ氏(大阪府在住、男性、好きな食べ物・オムライス)」は別人でラさんの次にソ氏がいる事になります。この場合ベクターな音が効果を発揮します。
ラスターな音
音の輪郭がボケていて、音の個性も曖昧で変化させる事に向いています。
その音を演奏しながらも別の音やニュアンスにベクトルが向いていてその音一つ一つに対する集中力が弱い感じになります。
ソはラと同じ音
例えばラの次の音がソである時、ラが100個の分子の塊であるとした場合にラの始まった瞬間は100%ラだったのに、次の瞬間ラの分子の1個がソに変わっていて「99%ラ1%ソ」、「98%ラ2%ソ」・・・「1%ラ99%ソ」と次第にラの要素がソに変わっていきその変貌の結果「100%ソ」になって行く、人に例えるとラさん(東京都在住、好きな食べ物アンパン)とソさん(東京都在住、好きな食べ物オムライス、もとラ)、ソさんは何らかの事情があって変貌したラさんの姿であって、同一人物となります。
ラがソになる事情
ラさんは、昔子供の頃大阪に住んでいて、近所にあったパン屋さんのアンパンがとても好きでした。その小さなパン屋さんは、パン作りがあまり上手ではなかったけど、とても優しい人でいつも可愛がってくれていました。時には失敗して少し焦げたアンパンの時もありましたが、その味が好きだったのです。
それから東京に引っ越し、大人になってもずっとアンパンが好きでした。美味しいアンパンを探していろんなパン屋さんを巡るのが大好きでした。
そんなある日、ふと昔の記憶が蘇り、あのパン屋さんのアンパン今も食べれるのかな?と食べたくなり大阪に行ってみたのです。久しぶりに訪れた昔の住所にはもう昔住んでいた家は無くて、町の様子もかなり変わってしまっていました。小さなパン屋さんのあった場所に行ってみるともうそこにはパン屋さんは無く小さな洋食屋さんに変わっていました。
あまりにも落胆したラさんはそのまま東京に帰り、幻のアンパンの味を求めて更にアンパン探索を始めました。
もう食べられないとわかってからは大好きなはずのアンパンに何故か寂しさを感じるようになりました。心の中にフラット(♭)が芽生えてきたのです。大好きなアンパン、でもアンパンを食べると寂しい、という気持ちの混在が、ラさんをラでありながらラ(♭)にさせていました。いっそのこと全く違う食べ物を好きになろう、もうラでは無くソになってしまったら楽かもと思いはじめる様になりました。しかし何かモヤモヤしたまま時がただ過ぎました。
ある夜全然眠れず、突然ある考えが浮かびました。そういえば、あの場所、洋食屋さんになってた。なぜ入ってみなかったんだろう、と想いはじめもう一度大阪に行ってみる事にしました。
そしてその小さな洋食屋さんに入ってみたのです。そこは、とても優しそうなシェフが一人でやっている普通の食堂の様なお店で、レストランというより洋食屋という感じのお店でした。ここにあったパン屋さんの事を聞いてみましたが、残念ながら知らない様でした。シェフは「そんな忘れられないアンパンを作れるなんてすごい方だったんですね」と話を全部聞いてくれました。
そのシェフは、元々料理人では無く絵が好きで、画家になりたかった過去を持つ人でした。独学で絵を学び、何のあてもなく日本を飛び出しパリに行き、いろいろあって行き倒れている所をレストランのシェフに助けられ、その時にオムライスを食べさせてもらった事がありました。その時のオムライスが本当に美味しくてそのオムライスを作る為だけに苦労を積み修行して、日本に戻り、ここにお店を出したのでした。
せっかく訪ねて来てくれたのに、アンパン作れなくて申し訳ないです。是非食べてみて下さい、と言ってオムライスを作ってくれました。
ラさんはそれを食べた時に、その味に衝撃を受けました。今まで食べた事のない味、美味しいだけではなく、優しい、心の中で何かが大きく変わったのです。新しいソとしての自分の発見、それはラのダブルフラット(♭♭)のソでは無く、純粋なソとして自分を新しくスタートさせる事のできる勇気を持ちました。
そしてラさんは好きな食べ物オムライスのソとなったのです。
例えばで何らかの事情を考えてみました。
ちょっと、例えるつもりがすごく長い話になってしまいました(・ー・)あくまで例えですが、ラがソに変わって行く変化を表現するのにはラスターな音が効果を発揮したりします。
息のかすれ具合を上手く使うのも効果が出ます
息のかすれ具合を、うまくボカシとして使うのもラスター感を出せたりします。フルートの外に出す息の割合を変えて90%かすれている、65%薄れているとか調整したり、時にはシャーリングも混ぜても効果的です。
音の絵の描き方
自分が描き出した音の世界を、視覚的な物に変換して考えた時に、写真の様にしたかったのか?イラストの様に描きたかったのか?または、背景は写真で、その前に文字やイラストを浮き出させたかったとか、いろいろ出てくると思います。
ベクターな音は、特に目立たせたい所に使うと、よりその部分がピックアップされてわかりやすくなります。曲の最初から終りまで全てベクターで描くとはっきりはしますが、硬い印象になります。
ラスターな音は、変化していく途中の音に使ったり焦点の合わない音に使ったり、いろいろ応用が効きます。全てラスターで吹くと少し逆にスパイスが足りない感じになるかも知れません。
曲想に合わせての使い方が重要になってきます。
まとめ
音のイメージには様々ありますが、具体的に分類する時に視覚的な物と置き換えて考えるのも、面白いです。ベクターな音でイラストの様に、ラスターな音で写真の様に演奏できるのでは、という可能性について書いてみました。